ルージュはキスのあとで
「……真美」
「はい?」
「お前な……考えていることと行動が伴っていない」
「へ?」
どういうことだろうか。
腕を緩め、長谷部さんを見上げる。
が、私の顔を見た長谷部さんは視線を逸らし、そっぽを向いてしまった。
それに、心なしか耳が赤い気がするのは……私の気のせいだろうか。
「長谷部さん。どうしたの?」
「……」
「長谷部さん?」
グイッと少しだけ顔を近づけるために背筋を伸ばした私を、チラリと再び横目でみた長谷部さんは眉間に皺を寄せた。
どうしてそんな表情をしたのか皆目見当がつかなかった私は首を傾げるしかできなかった。
だが、その瞬間だった。
長谷部さんに押し倒されたのは。
「え?」
慌てたなんてもんじゃない。心臓が口から飛び出してきてしまうんじゃないかと思うぐらいにドキドキとうるさい。
ううん、ドキドキじゃない。そんなかわいいものじゃない。
バクバクいっている。きっと近づいたら聞こえちゃうかもしれない。
そんなふうに思うほど、私の鼓動は大変うるさい状態だ。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
そんな言葉しか頭に浮かんでこない。
どうにか起き上がろうと思ったのだが、長谷部さんに覆いかぶされてしまって身動きがとれない。
そんな私に止めの一撃とばかりに、長谷部さんが私の耳元で囁いた声は威力がありすぎた。
「そんなふうにくっついてきたら、理性がぶっ飛ぶだろう」
「!!」
唖然とする私のこめかみに、長谷部さんはキスをしてきた。
ビクリと震える私を見て、長谷部さんは優し気にほほ笑んだ。
「不安げで戸惑っているわりには、抱きついてきて」
「だ、だって!」
思わず声をあげて反論しようとしたが、そのあとは口を噤んだ。
だって、長谷部さんの言っていることは今の私を言い当てている。反論できるわけがない。
真っ赤になって口を尖らせて唸る私を見て、長谷部さんはクツクツと笑った。
あたかも笑いを堪えているような様子で、だ。
ムッとして眉間に皺を寄せる私の頬を、長谷部さんはゆっくりと撫でた。
それだけで、ピキッと音をたてたように身体が動かなくなる。
そんな緊張でカチコチの私に、長谷部さんはやっぱり笑った。
「ほら、そんなに緊張するな」
「し、しますってば! 緊張しないなんて絶対に無理!」
声を荒げ、真っ赤な顔で言う私だが、これでも少しは反論できただろうか。
……たぶん、無理だろうな。
目の前の長谷部さんの嬉しそうな表情をみただけで、自分の反論は長谷部さんにとって痛くも痒くもなかったんだろうと簡単に予想ができた。