ルージュはキスのあとで
「ケバくなったのは、あなたの化粧の腕がへたっぴなだけ」
「うっ!」
笑顔で心にグサッと刺さる言葉を言う皆藤さんに、隣の彩乃もウンウンと深く頷いている。
少しぐらい彩乃だって助けてくれればいいのにと、恨みがましくジトッと彩乃を睨む。
が、その視線さえもスルーされてしまい、ガックリと肩を落とすしかない。
項垂れる私に、皆藤さんはグッと顔を近づけてきた。
「これは練習すればうまくなるし、濃い目の顔つきの人はそれに対応したメイクをすればケバくなんてならないんだよ?」
「そ、そうなんですか……」
少し疑心暗鬼だった。
皆藤さんを疑ったわけじゃないけど、所詮下地がうまいこといっていなければそれまでだと思う。
そんな私の気持ちを汲み取ったのか、皆藤さんがポンと手を叩いた。
「今ちょうど彼が編集長と会議してるのよ。今回の企画の主役であるメイクアップアーティストさんが、ね」
そういって意味深にウィンクをする皆藤さんに食いついたのは、彩乃だった。
「え!? 誰なんですか? もしかして進さま?」
「あー、進くんじゃないわ。進くんのほうはいつもどおりの『メイクアップ指南術』の担当なんだけど、次回から別の新たな企画を打ち出す予定なのよ」
「え? どんな企画なんですか?」
好奇心がムクムクと湧いてきたのであろう彩乃は、身を乗り出して聞いた。
そんな彩乃を見て、おかしそうに笑ったのは皆藤さんだった。
「あら、あなたをスカウトしたんじゃないんだけどな、残念ながら」
「あー、私はそういうの興味ないからいいんです。ただ、皆藤さんが真美の魅力に気がついてくれたのが嬉しくて!」
ニコニコと笑う彩乃を見て、なんか涙が出そうになっちゃった。
そんなこと言ってくれるのは彩乃ぐらいだ。
思わず鼻を啜った。
「真美の魅力に気がつかないバカな男たちが世の中多すぎ! 磨けば光る素材だって気がつかないんですよ。もーね、私じれったくて」
「あー、わかる、その気持ち。私も彼女を見たとき思ったのよ。ちょっと頑張れば光るのになぁって」
「ですよねー! 私、そのことに気がついてから真美にことあるごとに“メイクに関心をもって”って言い続けてきたんですけど、撃沈状態で」
「なるほどねー」
「私、コスメとかメイクとか好きなんですよ。だから将来そんなお店を持つのが夢なんですよね。今は資金稼ぎ中です」
店員になりきって真美に勧めているわけです、そういってカラカラと笑う彩乃。
そんな彩乃を見て、皆藤さんは嬉しそうに笑った。