ルージュはキスのあとで
「さぁ、そろそろ諦めろ」
「あ、諦めるって?」
その答えは怖くて聞きたくなかったけど、とりあえず聞いてみることにする。
だが、予想通りだったみたい。
思わず顔を覆いたくなるほどの甘い声で囁かれた。
「真美を初めて見たときから、お前のすべてが見たかった」
「っ!」
「顔だけじゃなく、すべてを俺の手でキレイにしたかったんだ」
「は、長谷部さん」
「もう待ったはなしだ」
長谷部さんは私の顔にかかってしまった髪の毛をそっと払い、甘く淫らに笑う。
スルスルと私のボディラインにそって手を添わして、そしてジワリジワリと甘く私の体を解していく。
「っ!」
ときおり敏感な場所に指を忍ばせ、私の反応をその切れ長な目がジッと見つめている。
私と視線が合えば、嬉しそうに笑う。
そんな笑顔を長谷部さんがしてくれるようになるなんて、初めて会ったときには思わなかった。
出版社の会議室で長谷部さんと初めて顔を合わせたときには、とても怖い人に思えた。
笑顔もない、冷たい視線。
それだけで私を脅かし、逃げ出したくなった。
だけど……。
今は、その冷たい視線の中にも私に対しての愛を感じる。
そんなふうに感じるようになるだなんて……あの日の私は知らなかった。
ゆっくりと私の服を脱がしていく。それに私は従順に逆らわなかった。
初めての体験だもん。怖くないといったら嘘になる。
怖さよりまさった想いは、長谷部さんに触れてほしかった。それだけだ。
私のすべてを見てほしい、すべてに触れてほしい。
柔らかい唇で私を愛してほしかった。
今の私は、間違いなく長谷部さんを欲していた。
ねぇ、長谷部さん。
長谷部さんも同じ気持ちなのかな? これが恋しいってことなのかな?
愛してるって言葉でいいたくなる気持ちなのかな。
恐るおそると手を伸ばし、長谷部さんの頬に触れた。
その瞬間、長谷部さんが嬉しそうに笑った。
その笑顔を見ただけで十分だった。
私を長谷部さんのモノにしてください、そう呟いていた。