ルージュはキスのあとで



「ちょっと! 皆藤さん。これって何をしているんですか?」

「んー? ふふふ」



 怪しげな笑いをするだけで、何も教えてくれない。
 半ば諦めて椅子に座り、ため息を零していると皆藤さんにバシッと背中を叩かれた。



「ま、なにも聞かず、キレイにしてもらいなさい!」

「へ?」


 コンコンというノックの音のあと、部屋に入ってきた人物を見て目を丸くさせた。


「は、長谷部さん!?」


 たくさんの道具が入った鞄片手に部屋に入ってきた長谷部さん。
 実は、昨日食事にいったばかり。
 
 そのときには、今日のことを何も言っていなかった。
 これってば、どういうことなんだろう。


「じゃ、頼んだわよ。あとで呼びにくるから」

「わかりました」


 バタバタと忙しそうに部屋を出て行く皆藤さんを見送ったあと、私は待ちきれずに長谷部さんに聞いた。


「これって、一体……体験モデルはこの前ので終わりって言ってましたよね?」

「ああ」


 メイク道具を出しながら、長谷部さんは短く答える。


「なんか可愛いワンピースまで着させられたんですけど」


 スカートの裾を少しだけピラピラと弄りながら言うと、長谷部さんは手を止めて鏡越しに私を見つめていた。


「いいな、それ」

「へ?」

「似合っている」

「っ!!」


 真っ赤になった私を見て、クツクツと笑う長谷部さん。

 
「からかいましたね!?」


 クスリと軽く笑ったあと、私の言葉の返事もなく長谷部さんは椅子を指差す。


「そこに座れ」


 仕方なく長谷部さんに指定された椅子に腰掛ける。
 長谷部さんは、座った私の両肩に手を置き鏡を覗き込んで、そして……。

 視線が……合った。 




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