ルージュはキスのあとで
そりゃあね。
少しはキレイになりたいなぁとも思うわよ?
これでも一応、一応女だもんね。
いろいろと思うこともあるってもんだ。
だけど、それとこれとは別の話。別問題だ。
さっき長谷部さんに眉毛を整えてもらったとき、「これだけで、こんなに変わるの!?」とかなり驚きだったことは確かだ。
彼の手にかかれば、きっと3ヵ月後には私を見違えるほどに垢抜けさせてくれることだろう。
“京さま”と世間で騒がれているらしい長谷部さん。
その彼がやると言ってくれたのだ。
普通なら大喜びで、すぐにOKサインを出すことだろう。
しかし、そこは私。田島真美だ。
巷で騒がれていようが、なんだろうが。
こっちは相手のことをまったく知らないから強気に出れるってもんだ。
どんなに有名人だって、私にかかれば見知らぬ人。それだけだ。
そんな人に、あんなに冷たい視線を向けられるだなんて……。それも3ヶ月も……。
3ヶ月だよ? 3か月って結構長い期間よ?
ごめんだね、そんなの。
それも仕事で疲れて、やっと終わった! おうちに帰ろうとウキウキしたいというのに、定時で終わったら指定された日に通わないといけないっていうの?
そんなの横暴だ。
「じゃ、明日ここに7時な」
そう言った長谷部さんの声が頭の中で繰り返されている。
それも冷たそうな表情と視線のオプション付き。
いや、オプションじゃなさそうだ。
標準装備っぽかった。
毎回、あんな能面男にメイクのことで、ああだこうだ言われて落ち込みたくない。
間違いなく、私はあの能面男にバカにされる。
だってメイクのその道のスペシャリストからみたら、私のメイクだなんて……。
「……」
ギュッと手を握り締めて、私はその場に立ち竦んでしまった。
早く長谷部さんを見つけて、やめさせていただきますと言いたいのに。
こんな企画に私は参加しないと言わないといけないのに……。
私の足は一向に動こうとしない。