ルージュはキスのあとで
要するに怖いんだ、私。
男の人、それも世間で上玉だといわれるようなキレイな顔をした人とふたりきりという状況が、どうしても怖い。
それも長谷部さんは、かなりの有名人だと見た。
私はこういうことには疎いから、まったくわからないけど。
長谷部さんの冷静でなにもかも見透かしてしまいそうな目が怖い。
ここで立ち止まっている暇なんて私にはないはずなのに。
早く長谷部さんを見つけ出して、断って。
そして、そして今回の企画のモデルは、もっと違う人と変わってもらわなくちゃ。
考えてみたら、ものすごく人気雑誌に掲載されるって結構大変なことなんじゃないかなと思う。
それこそ、いろんな人の目が気になるようなことになりかねない。
そんなこと、私にできるだろうか。耐えれるだろうか。
絶対に無理。これだけは反対しなくちゃ!!
立ちすくんでしまっていた足をなんとか動かすために、自分に発破をかける。
自分で自分に鞭を打ち、なんとかエレベーターホールに駆け込んだ。
が、一歩遅かったようだ。
ちょうど下に行こうとして閉まるエレベーターに長谷部さんの姿を見つけた。
「待って! そのエレベーター!」
手を上げて叫んだが、私の努力もむなしくエレベーターの扉は閉まり、階を示すランプは私の気持ちも知らず下の階のナンバーにランプがついた。
「ま、間に合わなかったか……」
ガックリと肩を落し、ヨロヨロと傍にあったベンチに腰をかけた。
長谷部さんを説得できなかったとなったら……やっぱり私はその体験モデルってやつをやらなくちゃならないってことなのだろうか。
皆藤さんと彩乃の高笑いが聞こえた気がして、ガックリと肩を落す。
ついでに能面のような長谷部さんの冷たい表情も思い浮かび、背筋が凍る思いだ。
ハァ、と大きくため息を零す。
その場から動く気力を失った私に誰かが声をかけてきた。