ルージュはキスのあとで
「お嬢さん。どうしたの?」
「え?」
まずはいきなり声をかけられたということに驚き、そして自分が声をかけられたのかどうかを疑った。
キョロキョロと辺りを見渡したが、お嬢さんと呼ばれる人物は自分しかいなかった。
なんせエレベーターホールには人は皆無で、自分しかいない。
どうやら私に声をかけてきたらしい。勘違いではなさそうだ。
改めて顔をあげて、そこでまたびっくりした。
キラキラでキレイ……。
男の人にこういう表現って似合わないかもしれないけれど、でも今、私の目の前には目がチカチカしてしまうぐらいに輝きに満ちた男性が心配そうに私を見ていたのだ。
キレイな顔と、優しい声。
目の前のキラキラ男子にあっけにとられて何も言えなかった私だったが、弾かれたように口を開いた。
だって、その男の人は……彩乃に教えてもらった進さまだったのだから。
「……進さま?」
「僕のこと、知っているんだ? 京のことは知らないみたいなこと皆藤さんが言っていたのにな」
「え?」
フフッと軽快に笑う進さまは、さきほど私と彩乃が通された会議室を指差した。
「さっきね、皆藤さんに用事があって会議室に入っていったら、体験モデルを依頼した女の子が京を説得するために追いかけていったっていうからさ。気になって様子を見に来たんだよ」
「な、なるほど……」
至近距離にいるキラキラ王子に思わず萎縮してしまいそうだったが、進さまは物腰が柔らかくて、なんとなく男性が苦手な私でも躊躇なく話せた。
彼が纏うオーラはとても人懐っこくて居心地がよかった。
それに比べて……と、さきほどの長谷部さんを思い浮かべる。
長谷部さんのあの威圧的な態度。
同じようにメイク界を賑わせているふたりらしいのに、なんでこうも真逆なんだろうか。
長谷部さんのあの態度と表情を思い出し、再びため息が出てしまう。
私、あの長谷部さんにメイクを教えてもらおうことになってしまうんだろうか。
ガックリと肩を落とし疲れきっている私に、キラキラ王子は優しかった。
労わりの表情を浮かべて、進さまは優しく聞いてきた。