ルージュはキスのあとで
「私から見たら十分難しいってば。現代のお話じゃないところで、すでに私なら挫折だわ」

「そうかなぁー。結構面白いよ? 時代モノって」

「それって恋愛の話?」

「ううん。武士道の」



 私が今、読みかけているこの文庫本の内容を話そうとすると彩乃は拒否反応を見せて、私の言葉を遮った。


 
「本を読むなとは言わない。せめて現代恋愛モノも読んで!」

「えー、私どうも恋愛モノは……」



 渋る私に、彩乃は大きくため息をつく。
 そしてチラリと私をみたあとに、再びため息をつく。まったくもって失礼だ。

 ムッと眉を顰めて顔を歪める私に、彩乃は肩を竦めて再びため息を零す。
 これだけ何回もため息を零されると、こちらだっていたたまれないじゃないか。


「とにかく。真美はもうちょっと自分を磨く努力しなくちゃだめ」

「うー」

「社会人のたしなみとして最低限の化粧はしてるけど。もう少し色々できるんだよ?」

「そう……みたいだよね」



さきほど彩乃が見ていたファッション雑誌のことを思い出す。

 私がもっていない化粧品とかもたくさんあったし、使い方もわからないものもたくさん掲載されていた。

 彩乃から手渡されたファッション雑誌をじっと見つめていると、彩乃は「とにかく!」と、そのファッション雑誌を指差した。



「これ貸してあげるから、たまには見てごらんよ。パラパラめくるだけでもいいからさ」

「……うん」



 渋々と頷く私に、彩乃は満足げに頷くと、机に肘をつき顎を乗せて私をまっすぐに見つめた。



「だってもったいないよー、真美」

「もったいない?」



 首を傾げて彩乃を見ると、「うん」と大きく首を振って頷く。



「せっかく女に生まれてきたんだもん。キレイになりたくない? メイクでキレイになるのは、女の子の特権だよ?」

「特権かぁ」

「そうそう。メイクを変えるとね、髪型だって変えたくなるし、ファッションだって気になるし」

「ふーん」

「これから運命の人と巡りあうために準備しておいたほうが絶対にいいって」

「運命の人……?」

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