ルージュはキスのあとで
困惑のお姫さま
7 困惑のお姫様
「なにをそんなに拒むかなぁ、このお嬢さんは」
「……」
「クール王子に、みっちりきっちり女度あげてもらってきなさーい」
「……人ごとだと思って。ってか、彩乃がOKだしたんだから、彩乃がやればいいでしょうが!」
グサッと八つ当たり気味で、Aランチのウィンナーをフォークでさしながら彩乃を恨みがましく見つめると、目の前の彩乃は肩をすくめて苦笑した。
まぁまぁと、興奮気味の私を宥めるように彩乃はにこやかに笑った。
「いいじゃん。タダで一流の、それも今、巷で大人気のクール王子がメイク指南してくれるんだよ? こんな機会めったにないって」
「そりゃーそうかもしれないけど。……でもさぁ。長谷部さん……めちゃくちゃ怖いんだけど」
昨日の冷たい視線を思い出し、思わず震えあがる。
あの雰囲気の中、男が苦手でうまく話せない私が、あんなクールな印象の長谷部さんからメイク指南だなんて……。
考えただけでも、背筋が凍る。
私はめちゃくちゃ不器用だし、メイクについての知識は皆無と言い切ってもいい。
そんな私を、長谷部さんは根気よく教えてくれるというのだろうか。
昨日見た印象から言って、気長に優しく教えてくれるとは到底思えない。
ってか、なんだか冷たい視線で
「なんだよ、てめぇ。そんなこともできないのか?」
とか思われそう。
うわぁ、絶対あの男は言う。目で語るんだ。
で、最後にはバカにされて、
「お前にメイクの指南だなんてムリだな。この俺さまでもできないことは、ほかのヤツに当たったって無理だな」
とかいって、烙印を押しそうだ。
考えただけで、恐ろしい。