ルージュはキスのあとで
「今回のメイク指南を断るのなら、私はついていかないわよ?」
「い、いや……あはは。こ、断らないってば」
「本当でしょうね? それならいいけど」
疑いの目で私を見る彩乃の視線から逃げるように、私は視線を泳がせた。
「で、でも! とんでもなく無理難題を突きつけてきたりだとかだったら断ったっていいでしょ? ってか断るから」
「……とりあえず断る前提で行くのなら、私はついていかないからね」
「わ、わかったってば」
「わかったならよろしい。とにかく、もうあがくのはやめて諦めなさいって」
「うー」
口を尖らす私に、彩乃はクスクスと笑った。
「絶対にいい機会だと思うのよね」
「……そうかなぁ」
「そうよ。こういうチャンスはものにしなくちゃだめだよ、真美」
「……」
「誰しもがつかめるものじゃないんだから。それに真美に必要だから舞い降りてきたチャンスだってことよ」
「……」
「とにかく。私は真美には頑張ってもらいたいの。そのためなら色々応援するからね」
そういって彩乃は、ウィンクをして私の背中を押してくれたのだが……。
定時5時半。
そのあと片付けなどもあって結局いつもどおり6時に更衣室に向かおうとする私に、彩乃はポンと私の肩を叩いた。