ルージュはキスのあとで
「ってか、待ってよね!」
今まであまり男の人との接点はなかったから、なんともいえないけれど、ほとんど初対面という相手に対してこうも無愛想だと対処に困る。
男の人が苦手で、あまりうまく接することができない私でも、ここまで無愛想にはできない……と思う。
相手がどう思っていたのかは……わからないけど。
口を尖らせて急いで長谷部さんの隣まで歩いていくと、少しだけ歩調がゆっくりになった気がしたのは……私の気のせいだろうか。
こっそりと隣で歩いている長谷部さんの横顔を盗み見る。
キレイ……。
シャープな顎のライン。スラリと高い背。程よくついている筋肉。
長い手足。バランスのとれた体がキレイだ。
黒髪で短く整えられた髪が、また長谷部さんの魅力を際立たせていると感じた。
精悍さを感じる、その横顔。
どこひとつとっても落ち度などない。
パーフェクト、だ。
服装も、やっぱりセンスがいいなぁと、ファッションに無関心な私でさえも思った。
細身のジーンズに、Vネックのざっくりとしたサマーセーター。インにはシンプルなカットソー。
特にものすごくお洒落なアイテムを使っているわけでもないのに、しっくりと合っているし長谷部さんによく似合っている。
カッコイイ人が着れば、なんでもステキになるのね……。
ふと自分の容姿をショップのウィンドウに映してみて、自嘲気味に笑う。
平凡を絵に描いたような……ううん、平凡以下の私がどんなステキな服を着たとしても様にはなりそうにもないわね。
そして、ウィンドウに映る長谷部さんと私を見て、視線を背けた。
なんか……ちょっと惨め。
誰もが振り向くであろう男の長谷部さんに対し、雑踏に紛れ込んでしまいそうなぐらい存在感がなく女子力がまったくない私。
並んでいても、違和感だらけだ。
きっと先ほどから長谷部さんを振り返って見つめている女の子たちからしたら、隣にいる私なんてカスみたいに思っていることだろう。
不釣合いだ、そんなふうに思っているかもしれない。
そんなことを考えていると、ますます気分は急降下していく。
チラリと長谷部さんの横顔を見たあと、視線を足元に移した。
「やっぱりカッコイイ男の人って苦手だ……」
長谷部さんには聞こえないように、小声でそう呟いて鞄をギュッと握った。