ルージュはキスのあとで
「男が苦手か?」
「……」
「確かに、俺は無愛想だ。だから俺のことが怖いというのはわかる。だが、それだけじゃないだろう」
「……どうして、そんなことが言えるんですか?」
声を絞り出して、なんとか言葉を吐き出した。
長谷部さんは、私のことをまっすぐと見つめたまま人差し指を立てた。
「ひとつ。昨日一緒にいたお前の友人からの話を聞いて思った。ケバくなるからっていう理由だけで、あそこまで頑なに嫌がるだろうかと思った」
「……」
次に、中指も立てる。
「ふたつ。俺がお前の眉を整えてやろうと近づいたとき、かなり警戒していた。俺に苦手意識があったとしても、あそこまで警戒するのは異常だと感じた」
「……」
「このふたつのことを踏まえて考えてみても……ケバくなるからメイクをしないという以外にも理由があるんじゃないかと思った」
「……」
黙ったままの私に、その切れ長の瞳は訴えかけてきた。
「メイクをしないという大きな理由は……男関係が原因だろう?」
そう言った長谷部さんの顔を、私は逸らすことができなかった。