ルージュはキスのあとで
「っ!」
やっと顔をあげた私を待っていたのは、優しすぎる視線だった。
切れ長の瞳が、三日月のように細められている。
それは、とても意外な表情だった。
ストンと、なにかが心に落ちてくるのがわかった。
長谷部さんの真摯な気持ちだとか、優しさだとかが……ダイレクトに胸に飛び込んできて、今度は息がうまくできなかった。
「お前のトラウマの相手を驚かせてやれよ」
「べ、別に。トラウマなんてないです」
長谷部さんの声がとても優しかった。
だからこそ、私は反発してしまった。
嬉しかったのに、嬉しいからこそ反発してしまった。
天邪鬼だなぁ、と思わず心の中で苦笑した。
そんな私の気持ちなど、すべてお見通しとばかりにクスッと笑う長谷部さん。
そのあとは、いつものように無表情に戻ってしまった。
「ふーん。じゃあ賭けをしてみないか?」
「賭け……ですか?」
「そう、賭けだ」
テーブルの上で組まれていた手。
今度は肘をついて、手に顎を乗せて前のめりで私を見つめている。
より近づいた瞳に、私の胸はドクンと大きく高鳴った。
「3ヵ月後、男が声をかけたくなるような女になっていたら……俺の勝ちだ」
「……」
「もし、ならなかったらお前の勝ちだ」
「……」
「そうだな、勝ったほうが相手の願いをひとつ聞く。どうだ?」
「ど、どうって言われても……」
さすがに困惑した。
突然こんな賭けを長谷部さんが提案してくるだなんて思ってもみなかった。
考えが纏まらず、戸惑う私に長谷部さんは挑発的な視線を向けてきた。
が、私は内心笑ってしまった。