ルージュはキスのあとで
だって、そんなにうまくいくわけがない。
今までの人生で、男の人から声をかけられたことなんてないんだから。
それはこれからだってそうだ。
そう。
私は、半ば諦めている。恋だとか結婚とか。
正直に言えばしたいけど、自分には無理だと一線を引いていることは確かかもしれない。
思わず噴出して笑ってしまった私に、長谷部さんは眉をピクリと動かして怪訝な表情を浮かべた。
「なんで笑う?」
「だ、だって。それ、本気で言っていますか?」
長谷部さんの真剣な表情を見て、本気だと最初からわかっていたくせに私はわざとそんなふうに言ってみた。
「そんなふうになるわけないですから。私が男の人に声をかけられるなんてことになるわけがない」
これは断定できた。
確信を持って言い切ることができる。
まっすぐと長谷部さんを見つめると、長谷部さんは大きく息を吐き出した。
「なんだ逃げるのか?」
「に、逃げる?」
ギョッとして長谷部さんを見つめれば、そこには挑発的な瞳があった。
「俺にキレイにされても賭けで負けるから嫌。賭けに勝ったとしても、それはそれでプライドがズタズタになる」
「っ!」
「だから怖くて逃げるんだろう?」
クスリとキレイな顔で長谷部さんは笑った。
それも人を小バカにしたように、だ。
さすがの私もこれにはカチンときて長谷部さんを睨みつけた。