ルージュはキスのあとで




「……どうして分かったんだろう」



 長谷部さんの昨夜の言葉を思い出す。

「どうしてメイクをしないの?」

 そう聞かれることは、今までにだって何度もあった。
 だけど、「顔がケバくなるからメイクは極力しないの」と言えば、誰もが納得して誰もが頷いてくれていた。

 でも、長谷部さんは違っていた。


 それどころか、言い当てていた……。



 メイクをしない、本当に理由を。
 あのとき、私は思わず声をだしてしまうところだった。
 長谷部さんは、そんな私を見てなんと思ったのだろうか。




「男関係……かぁ」




 確かに長谷部さんの言うとおりなのだ。

 中高大と女子の中で育ったということで、男の人は苦手だった。
 でも、それだけじゃない。


 それだけじゃないんだ。



 パチンとお箸を茶碗の上に置いたあと、苦い思いを思い出しながら、ハァと大きく息を吐き出した。



「長谷部さんの読み、かなり当たっているんだよなぁ」



 トラウマ。

 長谷部さんはそう私に言った。
 それもきちんとした理由を並べて、だ。

 長谷部さんの言うとおり、過去に好きな人から笑われてしまったのだ。


 
「そのメイクありえない」




 そういって優しげな笑いとともに……。





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