ルージュはキスのあとで
あれは私が高校生を卒業したてのころだっただろうか。
女子大生になった私は、メイクをするために一念発起した。
高校生のころから、周りのみんなはすでにメイクをしていたけど、私はすっぴんで高校生活を送った。
だけど、やっぱり大学生になったんだ。
少しぐらいはお洒落もしたいし、キレイになりたい。
それに……好きな人に、キレイだと思われたい。
少しでも背伸びして、あの人の隣に並んでも恥ずかしくないようにしたい。
オトナになりたい。そうすれば……振り向いてもらえるかもしれない。
そう思った私は、見よう見まねで生まれて初めてメイクをしてみた。
買い揃えたのは、ドラッグストアでプチプラといわれるティーンを対象にしたコスメの数々。
なけなしのお小遣いを握りしめて、基本的な、自分でもわかっている範囲のものを買った。
ファンデーションに、アイライナー。アイブローにマスカラ。それに淡いピンクの口紅。
それを買い揃えて、鏡の前でそれらを並べた時。
なんだかオトナに一歩近づいたような、そんなワクワクする気持ちで胸がいっぱいだった。
しかし慣れないメイクは、ものすごく時間を要した。
だけど、一歩一歩子供からオトナの階段を上るような気持ちになっていきて、楽しかった。
鏡の中の私。
そこには、化粧を施して、少しだけ大人っぽくなった私がいた。
ヘタクソだけど、たぶん見れないほどじゃない。
ちょっとだけ背伸びした私が神妙な顔つきで映っていた。
「これならきっと……誉めてくれるよね」
いつも私を子ども扱いするあの人は、きっと誉めてくれる。そのときはそう信じていた。
だけど……。