ルージュはキスのあとで
勝手知ったるなんとやらで、「おじゃましまーす」と玄関で声をかけると中から「あがっておいで」というおばさんの声が聞こえた。
私は、はやる気持ちを抑えながら足早にリビングへと続く廊下を歩く。
リビングの扉を開けると、久しぶりの彼がいた。
「よぉ、真美。なんか久しぶりに会うな」
「そうだね、正和くん」
なかなか会う機会がなかった。
こうして顔をみて話すのも実は久しぶりのことだった。
だからこそ、今日は絶対正和くんに誉めてもらいたくて、メイクをしてみたのだから。
いつもと違う様子に気がついたのは、おばさんだった。
「あら? 真美ちゃん。お化粧してる?」
「そうなの! わかった? おばさん」
「わかったわよ。そっかぁ、もう大学生だもんね。お洒落したくなる年頃よねぇ」
ほほ笑ましいといった感じで私をみていたおばさんだったが、そんなときインターフォンの音が鳴り響いた。
「あら、お客様かしら? ゆっくりしていってね、真美ちゃん」
「あ、はい」
パタパタと玄関に行ってしまったおばさん。リビングに残されたのは、私と……そして正和くん。ふたりだけだ。
このシチュエーションに、バクバクと鼓動が煩い。
顔が赤くなるのをなんとか抑えようとしている私に、正和くんはジャケットを脱ぎながら言った。
それも悪びれもなく、だ。
「なんだ? 真美」
「え?」
「そのメイク、ありえないぞ?」
「……」
苦笑交じりでそういう正和くんを、私は直視できなかった。