ルージュはキスのあとで
「真美もお年頃ってヤツかぁ。だけど、無理に背伸びしなくたって、」
「あー、やっぱり? だ、だよね。ちょっとやってみたかっただけなの」
まだ何かを言おうとしている正和くんの声を自分の声で掻き消した。
えへへ、と無理に笑って、わざとらしく時計を見つめた。
「あ、ごめん。友達から電話がかかってくる予定だったんだ! じゃあね!」
なにか正和くんが呼び止めていた気がしたけど、立ち止まる勇気はなかった。
あのまま正和くんの前にいたら……泣いてしまいそうだったから。
今は泣けない。正和くんの前でだけは泣けない。
「あら、どうしたの? 真美ちゃん」
来客はすでに帰ったようだが玄関にまだいたおばさんに無理をして笑った。
「うん、用事思い出したから。じゃあ!」
靴を急いで履いて、自分の家に飛び込んだ。
バタバタと階段を上り、自分の部屋につくとテーブルに置き去りにしてあったコスメたちをゴミ箱に捨てた。
「……バカみたい」
ごみ箱に転がったコスメたちを見て、自虐的に呟いた。
少しでも背伸びしたかった。正和くんにオトナになったなぁって言われたかった。
ただ、それだけだったのに。
あの日、私の初恋は無残にも散ってしまったのだ。
正和くんが、どれだけ私のことを子供扱いしているのか、わかってしまったから……。