ルージュはキスのあとで
「なに? 知り合い?」
皆藤さんが興味津々な顔をして私と正和くんを交互に見る。
正和くんは、皆藤さんのその表情をみておかしそうに噴出した。
「実家が隣同士なんですよ。所謂幼なじみってヤツで」
な? と私に同意を求めてきた正和くんを見て、コクリと無言で頷く。
そんな私たちを見て、皆藤さんは納得したように頷いた。
「なーるほど。天野はね、真美さん。『Princesa』のファッション部門の担当をしているのよ」
「え……?」
偶然の重なりに、さすがの私もクラクラとした。
驚いて正和くんを見ると、目尻を下げて優しげに笑っている。
あのころの……私が好きだった正和くんが、そこにはいた。
なんだかタイムスリップして昔に戻ったような、そんな不思議な感覚がした。
「だから、天野とこうして顔を合わせることも多くなるかもしれないわね」
「……そ、そうですか」
ポツリと呟く私をよそに、皆藤さんは正和くんに視線を向けて指差した。
「天野。うちの大事な体験モデルさんなんだから、昔からの付き合いだとしても丁重にしてよね!」
少しだけおどけながら言う皆藤さんに、正和くんも苦笑した。
「了解です」
「なら、よろしい」
うんうんとわざとらしく頷くと、皆藤さんは噴出して笑った。
「真美さんも知り合いが身近にいると思えば、心強いでしょ?」
キラキラと興味深そうに私の顔を覗きこんでくる皆藤さんに、私も苦笑した。
「あ……はい、まぁ……」
歯切れの悪い私の発言をきいて、正和くんはポンポンと優しく私の頭に触れた。
「なんかあったら言えよ? まだまだ下っ端だとはいえ助けてやれることもあるかもしれないし」
「……うん、ありがとう。正和くん」
私の顔を覗きこむ正和くんに、少しだけ視線を逸らして頷いた。