ルージュはキスのあとで
「長谷部だ……お前、わかっていて聞いているだろう?」
「わかっていましたけど、最近は物騒な世の中ですからね。気をつけないと」
「……」
「で、なんでしたっけ?」
わざとらしく話しを切り返しながら、心の中でしてやったり! と手を叩いた。
いつも威圧的な雰囲気で対応してくる長谷部さんに一矢報いることができたことで大満足だ。
思わずニヤリと顔を緩めていると、電話の向こうの長谷部さんはもう一度さきほどのセリフを言った。
「今日は仕事休みだと皆藤さんから聞いたが……ヒマか?」
「……ヒマじゃないって言ったら?」
私、いい気になっておりました。はい、白状いたしましょう。
いままでやられっぱなしだった長谷部さんに、してやったりができたことで浮かれていたかもしれない。
しかし。
相手はなんといっても長谷部さんだ。
これ以上反抗すると、あとで痛い目に合うような気がした。
今後の長谷部さんの動向に今さらだけどビクビクしていると、一方的に長谷部さんは場所と時間を指定する。
「じゃ」
「ちょ、!!」
ツーツーツー。
電話の向こうは虚しく電子音が鳴り響いているだけだった。