ルージュはキスのあとで





 やられた!

 私は携帯を握り締めて肩を落とした。


 やっぱり長谷部さんに一矢報いた! なんて喜んでいる場合じゃなかった。
 しっかり痛い目に合ってしまった。
 一方的に話して、一方的に切られてしまった電話。
 唖然としながら頬を膨らませた。



「ふーんだ。一方的に言われたんだから、行かないもんねー。だって返事してないし」



 携帯をベッドにポイッと投げて、掃除機を再び持った。

 が、スイッチを押す前に大きくため息を零して叫んだ。



「もー! わかったわよ! 行けばいいんでしょ!?」



 掃除をするのを諦めて、急いで身支度をする。

 場所を指定されたはいいが、一体今日はそこでなにをするんだろうか。

 出版社でもなければ、カメラスタジオでもない。
 とにかくメイクとは関係ない場所のように思うのだけど……。

 一応会う人が会う人だ。メイクもしていかねばならないのだろう。



「めんどくさいなぁ」



 基本、休日はノーメイクだ。一応日に焼けるのはまずいかなぁと思って、べたべたと日焼け止めを塗るぐらい。

 とにかくシンプルなスタイルだ。

 まぁね、よく言えばシンプル。悪く言えば、干物女ってとこですかね。



「今日は図書館に行って、一日本を読み漁るつもりだったんだけどなぁ」



 昨日の休みが皆藤さんの呼び出しによって潰れてしまったので、今日こそはのんびりと過ごそうと思っていたのだ。

 しかしながら……のんびりな休日はお預けになりそうだ。


 なんせ私に呼び出しをしたのが、あの『クール王子』こと長谷部さんなのだから。

 しかたがなく顔を洗ったあと、適当にオールインワン化粧水を塗り、そのあとBBクリームを塗る。

 この化粧品は、彩乃が見せてくれたファッション雑誌に載っていて知ったのだ。


 ひとつで何役も補ってくれるなんて! 


 この化粧品を知ったときは、目からうろこだった。

 なんていったって時短だし、経済的だし。言うことナシだ!





< 67 / 145 >

この作品をシェア

pagetop