ルージュはキスのあとで
やられた!
私は携帯を握り締めて肩を落とした。
やっぱり長谷部さんに一矢報いた! なんて喜んでいる場合じゃなかった。
しっかり痛い目に合ってしまった。
一方的に話して、一方的に切られてしまった電話。
唖然としながら頬を膨らませた。
「ふーんだ。一方的に言われたんだから、行かないもんねー。だって返事してないし」
携帯をベッドにポイッと投げて、掃除機を再び持った。
が、スイッチを押す前に大きくため息を零して叫んだ。
「もー! わかったわよ! 行けばいいんでしょ!?」
掃除をするのを諦めて、急いで身支度をする。
場所を指定されたはいいが、一体今日はそこでなにをするんだろうか。
出版社でもなければ、カメラスタジオでもない。
とにかくメイクとは関係ない場所のように思うのだけど……。
一応会う人が会う人だ。メイクもしていかねばならないのだろう。
「めんどくさいなぁ」
基本、休日はノーメイクだ。一応日に焼けるのはまずいかなぁと思って、べたべたと日焼け止めを塗るぐらい。
とにかくシンプルなスタイルだ。
まぁね、よく言えばシンプル。悪く言えば、干物女ってとこですかね。
「今日は図書館に行って、一日本を読み漁るつもりだったんだけどなぁ」
昨日の休みが皆藤さんの呼び出しによって潰れてしまったので、今日こそはのんびりと過ごそうと思っていたのだ。
しかしながら……のんびりな休日はお預けになりそうだ。
なんせ私に呼び出しをしたのが、あの『クール王子』こと長谷部さんなのだから。
しかたがなく顔を洗ったあと、適当にオールインワン化粧水を塗り、そのあとBBクリームを塗る。
この化粧品は、彩乃が見せてくれたファッション雑誌に載っていて知ったのだ。
ひとつで何役も補ってくれるなんて!
この化粧品を知ったときは、目からうろこだった。
なんていったって時短だし、経済的だし。言うことナシだ!