ルージュはキスのあとで
ササッと口紅をつけて、ハイ終了。
ものの3分もかからず終わる、私のメイク所要時間。
これを間近で見ていた彩乃は、「ありえないわ……」と呆れた顔をしてみていたが、構うものか。
私がメイクしようと、しまいと誰にも迷惑なんてかかってない。
だから、いいの。これでいいの。
バックにハンカチと携帯とお財布を入れて家を飛び出した。
指定の時間と、ここからの指定場所の距離。
どう考えても急がなくちゃ間に合わない。
「ってか、長谷部さん。私がどこに住んでいるかも聞いてないくせに。勝手に指定時間決めないでよね」
なんとか駅までたどり着いた私は、指定された場所の最寄駅の切符を買い、ちょうどホームに停まっていた電車に飛び乗った。
電車に揺れること30分。駅に着いて、人の多さに驚いた。
もしかして、今日ここでライブとかあるのかしら?
いや、でも待て。
あの長谷部さんが、アーティストのライブに私を誘うだろうか。
その前に、あの長谷部さんがライブ?
どう考えてもミスマッチだ。
ありえないだろうけど、アイドルのコンサートの追っかけみたいに、メンバーの名前入りのグッズを持って応援する長谷部さんを想像してしまった。
だめだ、ウケる。
だがしかし、ひとりでこんなところで笑っていたら不審人物だ。
なんとか笑いがこみ上げるのを誤魔化して、辺りを見渡す。
長谷部さんの指定の場所は、この駅の南改札だ。
この駅から徒歩10分という場所に大きなホールがある。
ここではコンサートやスポーツの試合などがよく行われることで有名なホール。
私にとってコンサートもスポーツも縁薄い存在なので、ここに来たのは実は初めてだ。