ルージュはキスのあとで
「とにかく行くぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいってば」
長谷部さんは普通に歩いてはいるのだろうけど、私は小走りじゃないと追いつかない速度だ。
もし、ここで長谷部さんを見失えば、この会場内で会うことはできなくなるかもしれない。
それだけ今日の人出はすごい。
一体、このホールはどんな様子なんだろう。
その、化粧品展示会なるものは、どんなことをやっているのだろうか。
辺りを見渡せば、お洒落に敏感な女の人やビジネスマンらしき人。
いろんな人が、駅からこのホールに流れてきている。
私はとりあえず長谷部さんを見失わないようにと必死だ。
少しだけ足早に、注意深く長谷部さんについていく。
長谷部さんが持ってきていたチケットを受付で渡し、人の流れに逆らわず、中に入っていく。
ホール内に入って、思わず声をあげてしまった。
「うわぁ……すごい」
「お前でも知っているような会社名もあるだろう」
ホール内は、いくつかのブースに区切られていて色んな化粧品会社が軒を連ねていた。
コスメ関連がからっきしダメな私でも、長谷部さんの言うとおり知っている化粧品会社名があった。
「ああ……はい。でも知らないところもいっぱい……。ってか世の中にはこんなに化粧品を取り扱う会社があるんですか?」
「こういう仕事をしていても全部は把握できていないからな」
苦笑気味で言う長谷部さんに、私も頷く。
「それは、まぁ……そうでしょうね」
「だから新規開拓していくわけだ」
「へ?」
「いろんなものを見て、触れて、感じる。その中からいいものを選んでいく。こういう場に来て情報も仕入れていくんだ」