ルージュはキスのあとで
受付でもらった案内図を片手に、長谷部さんは行く場所の目星を決めているのだろう。
じっと見つめならが、そう言った。
「へぇ……日々勉強ですねぇ」
「まぁ……そういうことだ」
「……」
「いろんなところでサンプルもくれるから今日は見れるだけ見て回るぞ」
「え? ま、待ってくださいよ!」
そんな私の声など聞こえないとばかりに、長谷部さんはスタスタと会場内を歩いていく。
人がごった返す展示場。
いくら長谷部さんの背が高くて見つけやすいとはいえ、そしてダークなオーラも感じることができるとはいえ私が追いついていけない。
どんどん遠くなっていきそうな長谷部さんの背中。
それについていくだけで至難の業だ。
「ちょ、ちょっと! 長谷部さんってば! 待ってください!」
思わず半べそでそう叫ぶ私の声は長谷部さんに届かない。
これだけの人がいれば、声なんてかき消されてしまう。
しかし、これ以上距離が開いてしまったら完全にはぐれてしまう。
人と人の波に揉まれて長谷部さんとの距離が開きそうになった、そのときだった。
突然長谷部さんが振り返ったと思ったら、ツカツカと人と人を掻き分け、私の目の前までやってきた。
「……んとにトロいな」
呆れ顔で私を見下ろしているのは、クール王子こと長谷部さんだった。
世間では『クール王子』などといわれて騒がれているけど、私にしてみたら『ダーク王子』だ。