ルージュはキスのあとで
長谷部さんを見て騒いでいる女子の皆様に、ぜひとも一度教えてあげたい。
あれはね、クールじゃないの。ついでに王子でもないの。王子さまっていうのはお姫様を守るようなおとぎ話に出てきそうな容姿性格ともにパーフェクトな男子のことを言うんだ。
確かに容姿は王子様のように見えるが、中身は絶対にダークだ。
真っ黒すぎて、冷たくて。
いつも零度の視線で人を見下しているんですよ? ダーク王子の間違いですよ。
ムムッと癇に障った私は、長谷部さんを見上げて睨んだ。
また見上げなければ顔が見れないっていうのも、私の怒りを増幅させた。
挙句、キレイな女の子たちが立ち止まって長谷部さんを見ている。
それがまた、癪だ。
ついでのオマケである私への容赦ない視線も気になるし、まったくもって迷惑極まりないんですけど。
でも、私はもうオトナですからね。
子供っぽいことはできない。容姿に自信がないとはいえ、一応これでも社会人ですからね。
社会には、いろーんな人がいるということをこの一年いやってほど勉強しましたからね。
心が寛大なんですよ、真美さんはっ!!
地団駄を踏みたくなるのを、グッと我慢して引き攣りながら笑顔で答えた。
「し、失礼な! 長谷部さんがひとりで早く行きすぎなんですよ」
「それはしかたない。足の長さが違うからな」
「っ!!」
こちらが反論すれば、またイヤミで返ってくる。
本当に失礼なヤツだ、長谷部さんは。
いくら女子力低下気味であり、メイクもしたくないぐーたらな女とはいえ、この扱いは酷すぎると思うのだけど……。
どう考えたって王子じゃないはず。王子って言うのはね、進くんみたいな人を言うんだ。