ルージュはキスのあとで
怒りに震える私を見て、プッと噴出したあと。
長谷部さんは、強引に私の手を取った。
「はぐれるなよ?」
「っ!!」
そう言って笑った長谷部さんの目が、ものすごくやさしくて……手を振り払うことはできなかった。
「さてと、手当たり次第見ていくぞ」
「……は、はい」
繋がれた手と手。
長谷部さんに見つからないように、こっそりと見つめた。
中学生になってから……というか、物心ついたあとに男の人と手を繋いだことはないように思う。
最後はきっと……小学生の低学年だったように記憶している。
「大きいんだ……男の人の手って」
小さく呟いたから、きっと長谷部さんには聞こえていないはずだ。
これだけの人がいれば、雑踏の中に私の声など掻き消されてしまっているだろう。
私の手がすっぽりと隠れてしまう、長谷部さんの大きな手。
ドキドキする胸をなんとかごまかし、その大きな背中を見つめた。