ルージュはキスのあとで
「質問が悪かったか」
「……」
「トラウマの相手と会った感想は?」
ん? とチラリと私を見やる長谷部さん。
どちらの質問にしても、悪いと思いますけどね。
どっちにしても手厳しい質問に変わりはないですね。
私は、長谷部さんからの問いの答えを保留にしたままストローに口をつけオレンジジュースを飲む。
酸味たっぷりで果肉が入ったオレンジジュースは甘すぎず、さっぱりしていておいしい。
ストローでクルリと混ぜれば、カランと氷が音をたてた。
フゥと鼻から息を吐き出し、目の前の長谷部さんをチラリと見ると、やっぱり今も私の顔を見つめている。
それも、まっすぐにだ。
冷たくて、だけど何かを感じるような鋭い視線。
いつものように、なんでも見透かしているような長谷部さんの視線と表情に、私はやっぱり負けてしまった。
もう一度、ゆっくりと息を吐き出したあと照れ隠しで笑った。
「トラウマだなんて……大げさですよ?」
「……」
「長谷部さん?」
笑ってごまかして、この場を繕おうとしていた私を今だ真剣な顔をして見つめている長谷部さん。
そんな彼を見てしまったら、笑ってごまかすだなんてことはできなかった。
手にしていたグラスを戻し、背筋を伸ばした。
「……なんか昔のこと。色々思い出しましたけど、なんだろう……あのころ感じていた苦しみとか痛みはなかったです」
「そうか」
「はい」
強がりではなく、本当にそんな感情はなかった。
とても不思議だった。
コクリと頷き私は、そのまま下を俯く。
そして、上目遣いでこっそりと長谷部さんを見た。
長谷部さんはといえば、ゆっくりとコーヒーカップを持ち、少しの間見つめていたと思ったら、そのままソーサにカップを戻した。
「じゃあ、あとは抜け出すだけだな」
「……抜け出す?」