ルージュはキスのあとで
それって、やっぱり脅しですか?
17 それって、やっぱり脅しですか?
ついに始まったメイク講座。
と、思ったのもつかの間。
「……とりあえずお前には徹底的に基礎を教え込む」
「ヒィィィ」
あまりに黒く冷たい視線を一身に浴びてしまった私は、恐怖のあまり顔を引き攣らせた。
長谷部さん曰く、メイクの前の下地作りが肝心なんだそうで……。
洗顔の仕方から、化粧水の使い方、はたまたクレンジングの使い方などなど。
スキンケアという分野を、徹底的に教え込まれましたよ、はい。
「洗顔料ひとつ取ったって、やり方は千差万別。化粧品会社が提案するやり方も様々だ」
「は、はぁ……」
「まずは自分に合った化粧品を見つけることから始める」
「は、はい……」
相変わらずの厳しい表情に、冷たい声。
だけど、そこに注がれるのは仕事に対する情熱。
どんなこと小さなことでも力を抜くことは許さない。
そんな長谷部さんの熱意を感じた。
私の肌を隈なく調べたあとは、おすすめの化粧品をいくつかピックアップしてもらって試していく。
「パッチテストは必至だ。めんどくさがってこれを怠ると、肌に合わなかったら最悪になる」
「……ですね」
確かに化粧品を買うと、パッチテストをしてからうんぬんなどと書かれているのを見たことはあったが、やったことはもちろんない。
今までやったこともないし、私の肌は敏感じゃないから大丈夫だと……。
そんなことをポツリと呟いたら、無言の圧力を感じた。
だが、思ったより長谷部さんのメイク講座は優しかった。
もっと、スパルタな感じを思い浮かべていたのだが、全然そんな感じではなかった。
だからこそ拍子抜けしてしまったのだけどね。
ただ……時折、無言の視線を感じるっていうだけ。まぁ、それが怖いっていえば怖いのだけど。