ルージュはキスのあとで
「言っておくが、俺とお前は運命共同体だからな」
「え……?」
「お前が怠けていたら、俺の腕が疑われる」
「うっ!」
私が言葉に詰まることを長谷部さんは予想していたのだろう。
先ほどまでは、思わず見蕩れてしまうぐらいの笑みを浮かべていた人と同一人物か? と疑いたくなるほど黒い笑みを浮かべている。
背筋が凍る思いがする、とはこういうことを言うのだろう。
私は、身をもって体験した。
そして、顔のキレイな人が何か含みのある笑いをすると……違う意味で脅威となって襲ってくるのだということも、肌で感じた。
「頼むぜ? 運命共同体。これからの仕事に響いてくるからな」
……マジですかい?
いや、これはマジだ。大マジな話しだ。
長谷部さんは売れっ子メイクアップアーティスト。
人気のある女性ファッション誌での企画は、世の女の人の目に留まるはずだ。
それなのに……体験モデルをした私が、万が一変わり映えしなかったら……?
考えただけで恐ろしい。
思わず血が、サァーと引いていくのが自分でもわかった。
どうしたらいいんだろう、と真面目に悩んでいると隣からはプッと噴出す声が聞こえる。
「そんなに真に受けなくても……」
苦笑いの長谷部さんに、私は必死になって食ってかかる。
「ってか、信じますって! なんですか、その信憑性がありそうな冗談は!」
「別に冗談ってわけじゃないけどな」
「え?」
再び固まる私に、クール王子こと長谷部さんが腹黒い笑みを浮かべた。
「ま、がんばれってことだ」
「……はい」
渋々頷く私の頭をグリグリと撫でる長谷部さん。
そして、グシャグシャになった髪を見てプッと噴出した。
まったく失礼極まりない。
「笑うことないじゃないですか! 長谷部さんが髪をグシャグシャにしたんですよ?」
「悪い、悪い」
「……絶対に悪いと思っていないですよね?」
「さぁ?」
しらを切る長谷部さんの横顔を見て、私はプリプリと怒った。