ルージュはキスのあとで
「真美さ、私服のワードローブ増えたでしょ?」
「……」
「今まで穿いたとこみたことないスカートとかワンピースとかさ」
「……」
「いい傾向、いい傾向! よしよし」
彩乃は、かなり満足そうだ。
彩乃の言うとおり。今までジーンズとカットソーぐらいしかなかった私のスポーティーすぎるクローゼットに色が加わった。
それも、ヒラヒラ系。
皆藤さんにいろいろアドバイスを貰って、実は意識的に増やしている。
今まで服にお金なんてほとんどかけなかったから、お財布からお金を出すとき、かなり躊躇するのだが、やっぱり前みたいなことがあるとまずい。
そう、あの抜き打ちテストみたいな写真撮影のことだ。
あれから私は心に誓ったんだ。
とりあえず、人さまの前にでてもおかしくない格好をしよう! と。
皆藤さんの知り合いのファッションアドバイザーなる人に、一緒に選んでもらったりだとか……。
「いずれ自分で選べれるように、コツを覚えておいてくださいね」
似合う色や、形。いろいろ教えてもらっていて、かなり助かっている。
ファッションにはうるさい彩乃から、ダメだしを食らっていないところを見ると今日の私の格好は大丈夫らしい。よかった。
ホッと息を吐いていると、彩乃は再びニマニマと笑って、開いてあった雑誌を指差した。
「京さまとほほ笑み合っちゃうだなんて! やるぅー」
ヒューヒューと口笛を吹くまねをしながら、彩乃はひとつの写真を指差した。
「ちょ、! こ、これはね。違うんだからね」
「はいはい」
「これはね、ほほ笑み合っているんじゃないくて長谷部さんにからかわれて」
「はいはい」
「ほ、本当なんだってば!」
「はいはい」
何度真実を言っても、彩乃には私が恥ずかしがっているだけだと思っているらしい。
なにを言っても、聞き流されるだけだ。
これ以上なにを言っても、彩乃は取り合ってくれないだろう。
諦めて再びバニラシェイクを口にすると、彩乃は少しだけ真剣な顔をして雑誌に載っている長谷部さんを指差した。