ルージュはキスのあとで
「だからさ。二人のことをサラブレッドっていう人も多いのよ」
「でも! 長谷部さんだって努力して、」
「まぁ、そんなんだけどさ。人気もある、顔もいい、腕がいい、その上家柄までいいとなるとさ、僻んで言う人がいるってことよ」
コーヒーを飲む彩乃に、私は眉を顰めた。
「……なんか、そういうのってイヤだな」
紙コップに口をつけたままチラリと視線を私に向けた彩乃は、次の瞬間、ニンマリと人の悪い笑みを浮かべた。
「バカに二人の肩もつじゃん」
「べ、別に!」
「とくに長谷部さん」
「そういうわけじゃ……ただ、長谷部さんは、勉強熱心だって知っているから……って、ちょっと彩乃! なによ、その顔は」
「ううん、いい傾向だと思ってね」
ニマニマ笑って、かなり嬉しそうな彩乃を私は睨みつけた。
が、そんな私の睨みなど怖くもないとばかりに、今だにニマニマと笑い続けている。
彩乃さん。かなり気持ち悪いですよ?
顔を引き攣らせて、彩乃を見ていると、今日一番の人の悪い笑みを浮かべた。
「?」
どうしたのかと聞こうとしたのだが、次の瞬間彩乃の言葉を聞いて思わず叫びそうになってしまった。
「このまま恋愛に突入とかどう?」
「あ、あ、彩乃!!」
やっぱり騒がしいファーストフード店に来て、大正解だった。
急いで自分の口を塞ぎ、辺りを見渡したが、誰一人として私のほうを向いていない。
誰もかれもが自分たちの話しに花を咲かしていて、ほかのことは耳にはいっていないらしい。
よ、よかった……。
ホッとため息を零したあと、彩乃を見れば、今だにニンマリと笑っている。
「真美に春がやってきたかなぁ~」
「……彩乃」
懲りない彩乃は、そんなことを呟いたあと、私からの視線に逃げるようにそっぽを向いた。