ルージュはキスのあとで
「なにを勘違いしているのか知らないけど……」
「勘違い?」
なにを言っているのだろうか。
勘違い?
って、なんのことだろうか。
そんな私の思考をストップされるような爆弾発言を、秋菜さんは自信満々で言い切った。
「京介と付き合っているのは、この私」
「……え?」
「モデルの秋菜なんだから。勘違いしないでよ?」
「……」
あまりのことに言葉が出ない私をみて、秋菜は嬉しそうにツンとすます。
「本当、たいしたことない子ね。アンタ」
「……」
「京介が、つきっきりで教えているって聞いて心配したけど……心配して損しちゃったわ」
オホホと高笑いをする秋菜さんの声が、とっても耳障りだ。
放心状態の私を見て、秋菜さんはさぞかし満足だろう。
高笑いの音量が、もっと大きくなる。
そして、ますます偉そうに胸を反る。
「色気も全くない人……かわいそうね、うふふ」
「……」
色気もなければ、胸もないわよ。悪かったわね!
思わず地団駄を踏みたくなるのをグッと我慢する。
「これなら、なんの心配もいらなかったわ」
「……それはよかったですね」
「うふふ、本当、よかったわぁ」
じゃあね、と立ち去ろうとした秋菜さんだったが、忘れていたとばかりに立ち止まって私を振り返った。
「京介が優しいからって、勘違いしないようにね。アンタみたな色気皆無な女、京介の眼中にないから」
「……」
ヒラヒラと手を振って、その場を去る秋菜さん。
私は、強烈なキャラと胸に突き刺さる言葉の数々を受けて戦闘能力はマイナスになってしまった。
「あの人が……長谷部さんの恋人?」
力が抜けそうになりながら、私は誰もいなくなった廊下で呟いた。