ルージュはキスのあとで
「ああー、もうやめやめ!」
頭を振ってその考えを消し去った。
私と長谷部さんは、つい最近知り合っただけの赤の他人だ。
その赤の他人のことを、どうこういうというのもおかしな話だ。
もし、私が他人に自分の好きな人のことをあれこれ言われたとしたら……いい気持ちはしないだろう。
それは、きっと……長谷部さんだって同じはずだ。
自分の恋人のことを、とやかく言われる筋合いはない。
長谷部さんなら、ピシャリとそう言いきるに違いない。
とにかく、私がこんなふうに長谷部さんの恋人である秋菜さんを悪く思っていたら不愉快に思うことだろう。
だって、自分の彼女なんだから……。
そう思うと、チクンと胸が痛んだ。
「長谷部さんが選んだ人なんだし。私がとやかくいうのはおかしいよね! うん」
そうなんとか自分に言い聞かせ納得させようとしたのだが、なかなか心のモヤモヤは消えてはくれない。
チクチクと痛む胸に気が付かないふりをして、私は会議室に置いてあった雑誌をペラペラと捲ってみる。
「……あ」
そこには、長谷部さんが秋菜さんにメイクを施している写真が大きく掲載されていた。
絵になるふたりだった。
きっと世間からみてもお似合いのふたりなんだと思う。
だけど……。
どうしても……私はお似合いだなんて思えない。
そして……思いたくもない。
ギュッと目を瞑った、そのときだった。