ルージュはキスのあとで
人生初めてのキス
21 人生初めてのキス
「……は、は、長谷部さん」
「……」
「今、なに……を?」
ギギギッと錆付いたブリキの人形のように首を動かし、後ろに立っている長谷部さんに顔を向けた。
そんな私の様子を見て、いつもどおりのクールな様子で口を動かす。
「別に」
「べ、別にって!!」
大慌てで立ち上がり抗議をする私を、長谷部さんはいつもどおり平然とした顔をして見ている。
そして鏡を指差した。
「ほら、見てみろよ」
「え?」
長谷部さんが指差した方向、そこには鏡があって、私の顔が映し出されていた。
「今のお前、どう見える?」
「ど、どうって……?」
鏡に映っている私。
真っ赤な顔をして、瞳が潤んでいる。
自分の表情を見ただけで、再び思い出されたのは……長谷部さんからの突然のキスだった。
初めての……人生で初めてのキス。
それは、突然私に降りかかってきた。
それも……クール王子と世間で騒がれているメイクアップアーティストの長谷部京介に、だ。
いつも冷静沈着。
クールな眼差しに、威圧的な態度。
口を開けば、やっぱり俺様な感じで……。
だけど。
時折見せる、フッと笑う優しげな笑顔だとか、言葉とか……。
そんな人からの突然のキスに動揺しないわけがない。
鏡の中の私は、直視できないぐらいに別人だった。
いつもの私じゃ……なかった。
視線を逸らす私。
しかし、それを長谷部さんは許さなかった。