夏色狂想曲
笑顔をなくした笑花は、その瞬間、この世のどんなものよりも俺を締め付けた。
笑花の仮面を剥がしたかった。剥がしたかったけれど、その下に隠れていたのは悲痛な涙だけだった。
そんな顔を見るくらいなら、この身を木っ端微塵にされたほうがまだマシだ。
今すぐにでも笑花を抱き締めたら、その涙もこの胸の痛みも全て消えてくれるのか。
笑花を、抱き締めたい。なんてそんなこと、できるもんならとっくの昔にやっている。
「笑花…―――」
多分、初めて、笑花の綺麗な指先が俺の方に伸ばされた。
目を伏せたい気持ちが溢れながらも、笑花を見据える。
なにも、かんじない
笑花の涙が、堰を切ったように溢れだすから、俺も我慢できずに瞳を伏せた。
涙が一筋、流れた気がした。
分かってた。
やっぱり、交われないってこと。