夏色狂想曲
届くか届かないかギリギリの小さい声で囁いた。
至近距離で見つめる笑花の瞳が見開かれる。…あ、今、唾飲んだ。
風に吹かれて揺れる草木の音しかしなかった静かな世界に、急に亀裂が入って我にかえる。
…女数人が自転車に乗りながら、後ろの道を通り過ぎた。
「…って俺、何言って…やべ、恥ず…」
顔が沸騰したみたいに熱い、やばい、やばい、なんか知らんがやばい。頭がテンパって、ひたすらやばいが繰り返された。
笑花から顔を背けると、左側に大きな温もり。笑花がもたれかかってきた。
「皐月は…かっこよすぎて、ずるい…」
…アホか、アホか。
笑花が可愛すぎて、こっちは死にそうなんだわアホ。アホ笑花。
辺りが夕日照らされて、オレンジ色というか、もはや赤い。今の俺の顔みてぇだな…なんて詩人みたいなことを思った。