夏色狂想曲
「でも、皐月…」
もう決めたから、だから、ほんとにさよならだよ。
辺りが薄暗くなってきて、虫の泣き声が聞こえてきた。
あの日以来、こんなに暗くなるまでここにいたことは1度もない。あの赤に染まりたくなくて、いつも明るいうちに逃げてた。
「皐月、あたし、振り返らないからねっ…」
親分に背を向けて立ち上がり、川を見下ろす。
「あたし、明日からここ、来ない…からねっ…」
聞こえてるはずないと分かっていても呟くのは、自分への言い聞かせ。
「皐月…大好きだよ…」
目の奥が熱い。視界が揺れる。声が震える。
「さつき、ばいばい…」
声に出した途端、堰を切ったように流れ落ちる涙。緩くなる鼻水。
歩きだそうとしたその瞬間、