夏色狂想曲
親分を含めたこの辺の木はみんな桜の木だ。
春は土手に沿って盛大にピンク色が綻んで、一瞬息を忘れるくらい綺麗。
今は青々とした葉が茂っているだけだけど、その木陰でそよそよと風を受けるのもあたしは好きかな。
「ねぇ皐月~、今日すっごい天気いいね」
ふかふかと短い草が生える地面に腰を降ろす。
親分に登って、定位置の枝に座っていた皐月もふわりと降りてきた。
皐月は昔からあそこに座るのが好きだよねー。
あたしも1回だけ登ろうとしたことがあったけど、なかなか親分は手強かった。
滑り落ちて膝を擦り剥いてから、あたしは枝に座る皐月を恨めしく睨むだけになったよね。
「いつだっけなー、アレ」
小さく呟いてちらりと隣の皐月を見ると、優しく目を細めてあたしを見ていた。