Believe
しばらくして、私の涙が止まった。

「優希ちゃん、もう大丈夫?」と優しく声をかけてくれる稲葉さん。

「はい。すみません。泣くつもりじゃ無かったのに…」と私。

「そんなに色々悩ませちゃってごめんね」と私の頭を優しく撫でてくれる稲葉さん。

「いえ、私、マイナス思考だから…悪い方にしか考えられなくて」

「でも、俺、本当に嬉しいよ。優希ちゃんの不安を早く取り除けるように頑張るからさ。それじゃー帰ろっか!」

と稲葉さんは私に手を差し出す。

私は稲葉さんの手を握った。

繋がれた手の温もりに恥ずかしさを感じながら、2人で駐車場に向かう。

すっかり提灯の灯りは消えていた。

駐車場に着き、稲葉さんの車に乗り込んだ。

(これで良かったのかは今は分からない。けれど、先の事なんて誰にも分からないんだし、今はこの気持ちを大切にしよう)

と思いながら、運転をしている稲葉さんを見る。

その時、視線を感じたのか稲葉さんがチラッと私の方を見る。

「ん?どうかした?」

「あっ、いえ…」

とっさに私は顔を正面に向けた。

「優希ちゃん、明日からまた仕事だよね?」と稲葉さん。

「はい。そうです。稲葉さんは?」

「俺は11時から打ち合わせ」

「そうなんですか?遅くなっちゃってすみません」

「気にしなくて平気だよ。優希ちゃんは朝、何時に起きるの?」

「私は6時くらいです」

「えっ、優希ちゃんの方が早いじゃん。ごめんね」

「いえ、大丈夫です」

と2人で笑う。

そんな話をしているうちに家の前に着いてしまった。

「着いちゃったね…」と稲葉さん。

「はい…今日はありがとうございました」と私。

「俺の方こそ、ありがとう」と笑顔の稲葉さん。

「じゃあ、おやすみなさい。帰り気をつけて下さいね」

と車から降りようとした瞬間

「優希ちゃん」と呼ぶ稲葉さん。

「はい?」と私は振り返る。
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