それでも君を
思いがけない言葉に小さく声が漏れた。
ナオがちらりとこっちを見る。
視線が合って慌てて部屋から出た。
給湯室まで走ると一息ついて電話を耳にあてる。
「ごめん。急にどうしたの?久しぶりに連絡きたと思ったらいきなり。」
ヤスくんから最後のの連絡がきたのは私の記憶が確かなら二年ほど前だった。
《ごめん、いろいろ忙しくてさ。》
忙しいなんて嘘に決まってる。
どんなに忙しい芸能人や政治家だってメールくらい返せるよ。
苛立ちを抑えながら冷静に話をすすめる。
「――そもそもロンドンに行ったんじゃないの?」
彼はロンドン支社に転勤が決まり、いまはロンドンに住んでいるはず。
《こっちに帰ってくることになったんだ。だから久しぶりにユリとね》
“ユリ”彼がその言葉を発するたびに私の胸は鼓動をはやめ、強く締め付けた。
「どうせ、若い女の子と遊びたいだけでしょ。私もう25なの。悪いけど他当たって。」
心とは裏腹に皮肉めいた言葉ばかりが口からこぼれる。