それでも君を



「いまの誰?」


電話を切ると同時に右側から聞こえた声の主はナオだった。


「盗み聞き?趣味悪いよ。」


ナオの横を通り過ぎようとしたら腕を捕まれた。


「ヤスって、高橋先輩やんな?
なんなんあの噂ほんまやったんや。」


あの噂。
まだ彼がここにいた頃、私と彼が不倫しているという噂が流れたことがあった。
もちろん私も彼も否定し続けた。



「何言ってんの。帰ってくるから久しぶりにご飯でも行きましょって話。
ていうかナオには関係ないでしょ。」


「なんでもない相手に合鍵なんか渡さへんやろ。」



いつも穏やかなナオがこんなに攻撃的な話し方をするのは始めてだった。



「…どっから聞いてたの?最低だよ。」


追い込まれてつい売られた喧嘩を買ってしまった。


「不倫してるユリちゃんのが最低や。
しかもサキさんの旦那さんやで?
自分が何してるか分かってるん?」


肩をつかまれナオから浴びせられる言葉を真っ正面から受けてしまった。
ずっと一番恐れていた言葉を。





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