金属バットを買って待つ(仮題)
金属バットを買う
俺は、石井建設のある小倉に行って石井を殺すかとも真面目に考えた。
皆が気を長く持てと言ってるように聞こえたが俺は、三十三年間で良い事も悪い事も人の倍は、確実に味わって来たと思っていたし、殺して自分自身も死ぬには、いい時期って物がある気がした。
今が一番いい時期に思えて仕方なかった。
北九州までは、この街からなら高速を使えば二時間あれば行けた。
俺は、自分が何の武器を持ってない事に気付いた。
石井を殺すにしても素手では、難儀するのは分かり切った事だった。
俺は、ナイフを買うかとも思ったが辞めた。
俺は、子供の頃から何度も中断しながらも剣道をやっていた。
高校の頃には、剣道部の主将をやり個人戦では、かなりの好成績をおさめていた。
段位は、二段だったが会社が順調な頃は、時々子供達に教えに町道場に行っていた。
木刀にしようと俺は、思った。
木刀なら使い馴れている。
木刀で石井の頭をかち割ると思うと思わぬ陶酔感が俺を襲った。
俺は、この街に逃げて来る途中にスポーツ用品店が国道沿いにあったのを思いだしそちらに車を走らせた。
そのスポーツ用品店は、昔からの店のようで駐車場も狭く店も小さかった。
まだ開いてなかった為に車の中でしばらく待ち、シャッターが開くと同時にサングラスを外しながら店の中に入った。
所狭しと野球用品が置かれてあり昔三冠王を取ったタイガースの外国人のポスターが日に焼け色褪せたまま貼ってあるのが目立った。
黴臭さと野球用品の匂いだろうか革の匂いが混じりあって独特な匂いが店内に充満していた。
頭が禿げた身体の大きな五十歳くらいの男が少し驚いた顔で俺を見た。
食事が終わったばかりなのかつまようじをくわえていた。