金属バットを買って待つ(仮題)
朝居た公園とは、ずいぶん違い雑草も沢山生えていたし、人の気配がしなかった。
俺は、この方が人が来ないし都合が良いし、今の俺にはこういう寂れた公園の方が似合うとも思った。
剣道の構えをして何度か気合いを入れてバットを振った。
普通剣道は、素振りの時に、相手の頭上辺りで止めるのだが俺は、これは、実践だと思い下まで降り下ろした。
ふと高校時代に剣道部の顧問が真剣を持って来て木を切る練習をさせた事を思い出した。
真剣で何かを切る時には、剣道の動きとはかなり違う動きをした。
剣道は、必ず打った瞬間に両手或いは片手で絞るようにして止めるのだが真剣は、止めては木を切れなかった。
スッと流す感じだったのを身体がまだ覚えていた。
色々考えながら面を打ったり突きを出したりした。
この二つが高校時代の俺の得意技だったからだ。
何か気配を感じて後ろを見ると夏だというのに毛糸の帽子を被った不精髭の中年が三メートルほど離れた位置からこっちを見ていた。
ホームレスだった。
痩せて小柄で髭のあちこちに白い物が混じっていた。
俺は、何となく親近感を覚え声を掛けた。
「おじさん、この辺に自動販売機か何かありますか?
喉が乾いてしまって。」