金属バットを買って待つ(仮題)
だが、柳川所長は、どこか人情があり若い俺を裏でかばってくれたりもしていた。
親父の会社は、トンネル工事を主に行う土木会社で全国各地や海外にまで行った。
俺の住む地方都市では、新興の会社として十年ほど前から、かなり名前が売れるようになったが元々は、富山県で会社を作った為に創立は、十七年ほどでそれほど新興と言う事は、なかったのだが本格的な社屋を建てたのが今の地方都市だった為に街の人間から見たら突然出て来た会社のように思えたようだった。
トンネル工事の下請け会社と言うのは、当時、沢山あったが親父の会社が人気があった理由の一つに若い優秀な社員が沢山いた事だったような気がする。
若い優秀な社員が地方都市には、少なかったし、若い社員は良い意味で、土木業者らしくなかった。
垢抜けていたし、頭の回転も早く働き者ばかりだった。
若い優秀な社員の三人は、俺が会社に入れた。
若い社員と年配の社員の間には、多少の溝もあったが、俺は、皆が上手く行くように間を取り持つ役目をして来たつもりだった。
だが、給料がまともに出なくなってから二ヶ月過ぎたあたりから、会社を辞める人間が出始めた。
当然の話しだった。
辞める人達からは、頑張ってとも言われたが中には、あからさまに、俺を批判した人達も居た。
社長の息子だから食べて行くのには、苦労しないだろうとか、どうせお金を残してるんだろうとか言われた。
それは、違ったが敢えて反論しなかった。
家は、全て会社の為にお金を出しきっていたし、全く会社に関係ない親族も巻き込み始めていたからだ。
俺が入れた三人は、かなり粘って頑張っていたが最後は、俺に何も言わずに辞めて行った。
言いにくかったのだろう。
あ~過去の事を思っても仕方ないと思い俺は、グローブボックスから箱入りの煙草ケースを取り出した。
二本残っていた。
俺はその紙で巻いた煙草に火を着け肺にゆっくり確実にケムリを送りこんだ。
しばらく肺に溜めてゆるゆるとケムリを吐き出した。