金属バットを買って待つ(仮題)
CDのスイッチを入れ少し大きめの音でかけた。
ローリングストーンンズのニューアルバムだ。
身体に幸福感が満ちて来た。
やたらに、ストーンズの演奏の細かい部分が聴こえて来た。
俺は、足でリズムを取りながら、もう一度煙草をゆっくりと吸い込んだ。
これは、マリファナだった。
友達から貰った物を時々吸っていた。
セックスに使うと良いとか言われたが俺は、音楽を聴く時かリラックスしたい時にしか使わなかった。
ギターやベース、ドラムの音が粒になって襲って来る感じがして興奮した。
ストーンズは、今頃日本に来てるのだろうか、それともまだアメリカをツアーしてるのだろうか俺には、今そういう細かい情報が入って来ないのが少し悲しかった。
このCDも別れた女の子に買って貰った。
彼女は、とてもいい女だったが荒れて行く俺に、付いて来れなくなり仕方なく別れたようだった。
金銭の問題や会社の問題では、なかった。
俺自身の弱さが招いた結果だった。
俺は、もう一服吸うとすっかり短くなったマリファナ煙草を灰皿に押し付け消した。
窓を開けて枯れ草に似たマリファナ煙草の匂いを少しでも消そうとした。
幸福感は、まだ続いていたが、不意に涙がこぼれた。
悲しみの涙だろうか?それとも後悔の涙だろうか?分からなかった。
どちらでも良かったし俺は、これからどうやってこの状況を抜け出すかを考えないといけなかった。
ミックジャガーもキースリチャーズも色々なトラブルを乗り越えて来て未だに、現役なのだと思うと少しだけ勇気が出た。
車を強くノックする音で我に帰った。
窓の外に大柄な若い男が立っていた。
「昨日から停めてるだろう?違法駐車だろう。こら!」
男は、金髪でジャージ姿だった。