金属バットを買って待つ(仮題)
男は、俺の車をかなり激しく蹴った。
確かに住宅街に違法駐車していたが、その辺りは、道幅も広くあちこちに違法駐車の車が見えた。
男は、更に俺の、車を強く蹴りながら言った。
「言ってる意味が分からないのかよ。こらあ!!」
男は、路上に唾を吐いた。
その唾を見た瞬間に俺の中の何かが動くのが分かった。
車の後部座席に手を伸ばした。
しかし、そこに置いてあるはずの沖縄で買った警棒が見当たらなかった。
そう言えば別れた彼女が危ないからと言って下ろしてしまっていたのだ。
俺は、仕方ないと思いながら男に声を掛けた。
「すいません。移動しますんでちょっと自動販売機でジュースだけ買わせて下さい。」
男は、舌打ちしたが仕方ないと言う顔をした。
俺は、車から降りると自動販売機まで行きなるべく大きめの缶ジュースを買い男の所まで戻った。
頭の中は、妙に冷静だった。
スニーカーの先が片方だけ汚れてる事に気付くくらい冷静だった。
男のそばまで来ると俺は、無造作に缶ジュースを持った右手を振り上げて男の頭に思い切り叩きつけた。
缶ジュースがへこんで炭酸の漏れるジューっという音がして液体が俺や男にかかった。
男は、頭を押さえてうずくまった。
俺は、顔面を蹴った。
二度、三度、四度、五度と数えるのがめんどくさくなるくらい何度も蹴った。
男の首が人形のようにガクガクと揺れた。
殺してやろうかと思った。
俺は、口の中でこのクソガキがと言い続けた。
男の血まみれの歯がアスファルトに落ちているのに気付いた。
俺は、蹴るのを止めた。
男は、歯の無い口で何か言いながらアスファルトに手をついた。
アスファルトから尿の匂いがした。
男が失禁したようだった。