レンタル彼氏Ⅲ【完結】
伊織と私が出会ったことはきっと。
必然なんだって。


信じてる。



伊織の家まで自転車を飛ばした。
まだ、伊織がいないことはわかってる。

でも、逸る気持ちを抑えることなんか出来なかったから。


「……鍵、鍵、っと」


そう、言いながら私はポケットから鍵を取り出す。

まだ、何もついていないそれを見て思わず口元が緩む。


高校生だったあの時から、こうして誰か男の部屋に入ることなんかなかった。

友達としてでなく、恋人として入ること。


…このまま、同棲とかなったらどうしよう。
嬉しい。
だけど、伊織は迷惑ではないかな。



…ダメだ、つい遠慮しちゃう。
マイナスに考えてしまう。


レンタル彼氏をしていた時の伊織は、光を浴びたように輝いていたから。



だから。

そんな伊織を女の子がほっとくわけないって。

そう、思ってしまうのはきっと私の弱さ。


伊織は勝手に不安になることを望んでなんかいないのに。


昨日、あれで伊織がどれほど私を必要としててくれたのかわかった。



もう、私は。
ただ、伊織を信じることだけ。

ただ、それだけ。



鍵を差し込み、部屋に足を踏み入れる。

相変わらずの、殺風景なこの部屋。

電化製品もなくて、娯楽もなく。
ただ、寝るためだけにある部屋。


然程汚れてなんかいなかったけど、私は腕のシャツを捲りあげると簡単に掃除を始めた。
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