レンタル彼氏Ⅲ【完結】
あの時の俺の優先順位は、泉よりも客だった。


だから、客に見られるのを避ける為に外で遊ぶことはなかったし、こんな風に仲良く手を繋ぐことなんて考えられなかった。


いつも、いつも。

俺は泉に一定の距離を保っていたから。



だからね。



「もう、不安にさせないから。
泉しか見ないし、泉以外いらない。
俺には泉さえいたらもう何もいらない」


心からそう思う。


あの時出来なかったことを、今思う存分してあげたいんだ。


ぎゅうっと、泉が俯きながら俺の手を強く握った。



「………あ、りが、と…うっ」


途切れ途切れに泉は震える声を出す。


「……メイク、崩れちゃうよ」


「…誰の所為よっ」


今にも溢れ出しそうな涙を目にこれでもかってぐらい溜めて、泉は俺を睨んだ。



そんな泉が可愛くて、俺は目を細めた。


こんな憎まれ口も可愛いだなんて、俺はどうかしてるのかもしれない。



泉は本当に普通な子なんだ。

特別美人なわけでもなくて、特別才能があるわけでもなくて。



ただの、平凡な幸せに過ごして来た女の子なんだ。
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