君中輪廻。
艶々のフローリング。
薄緑の壁紙。暖かみのある色を放つ蛍光灯。布団一式。
それ以外は何もない、殺風景な部屋。これが私の部屋だ。
16歳の時から、美琴の住むマンションに間借りをして早2年。
「衣辻、ちょっと来てくれ」
キッチンの方から声がする。
「何?」
「焼きそば、塩がいい?ソースがいい?」
「塩」
必要最低限の会話しか無いけれど、居心地が悪いわけではない。
ただ、気になることが一つだけある。
「ねぇ、藤宮には彼女とかいないの?」
「え…、それは…」
美琴はいつもこういうときだけ、歯切れが悪い。
「いるんだ」
「いないよ。でも、ずっと想い続けてる人はいるかな。その人は気づいてないんだけど」
「へぇ」
意外だった。
自分で聞いておきながら、驚いた。美琴に想われていながら、気づかない鈍感な奴がいるなんて。
「あ。大きい皿、二枚取って。その白いヤツ。衣辻はどうなんだよ、恋人とかいないの?」
「はい。恋愛とか興味ないの。」
「ふーん。よし、完成。食べよう」
白いプレートに麺がバランス良く盛り付けられている。人参が花形にくり抜かれ、ウインナーはタコさんにしてあった。
「「頂きます」」
箸で麺を掬い、持ち上げると、麺から湯気がもくもくと出てくる。ひとくち、口に含む。
「まずッ、しょっぱッ」
私が麺を吐き出すと、美琴はクスクスと笑いだした。
「何、何これ?焼きそばってこんなにまずく作れるものなのッ?」
「塩とソース。両方入れてみた」
相変わらず、クスクスと笑う美琴を睨む。美琴のこういう子供っぽいところは嫌いじゃなかった。
「ありえない…。水、水水ッ!」
しょっぱ過ぎて口の中がピリピリしてきた。
「衣辻、残さず食べなさい」
にっこりと笑う美琴の後ろに鬼が見えた気がした。