子悪魔ライアス★下克上~Der Traum des Teufels~
「それとも、余が悪魔であることが不満か?」
おそらく、勇者志願者たちの表情から察したのだろう。
アーヤは勇者志願者たちの心のわだかまりをついた質問を投げかける。

「オラたちは、家族だとか、友人だとか、そういう大切な人間を失って、その仇討ちの意味もあって、魔界さ行っただよ。」
中年の魔術師が答える。
「じゃあ逆に聞くが、貴殿らの大切な人間を奪ったのは余か?」
「それは…違いますけども。」
「以前の国王よりも、飢える民は減った、戦争は多いが負けは無し、国はどんどん豊かになっていく。余に何の不満がある?」

おそらく、悪魔にはわからないのだ。
勇者志願者たちの大切な人間を奪ったのは、悪魔。
そいつらと同じ、悪魔という種族の王に従うことは、理屈で納得できても、感情では納得できない。

「申し訳ないけんども、オラはここで辞めさせてもらうだ。」
「そうか。ご苦労であった。多少なりとも報酬は用意させよう。」
アーヤは大して気にした様子もなく、中年の魔術師に金貨を持たせる。
「故郷はどこだ?」
「数年前までバラドという国だった領地の山奥の村ですだ。」
「左様か。」
アーヤは転移の魔法を唱えると、中年の魔術師を故郷へ一瞬で帰した。

「他に帰りたい者はいるか?」
アーヤは確認をとるが、他の勇者志願者からは、帰りたいと言い出す者はいなかった。
「では魔界に送り返す。ゲートのカードはおそらくまだ残っているだろうから。」
アーヤは再び転移の魔法を唱え、勇者志願者たちを魔界へと戻した。

アーヤは再び、紅茶を一口飲む。
「さて、久しいな、ライアス、イブナク、ドリウス。貴殿らの用件を聞こう。」
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